【単独猟のポイントは記事の最後にMEMOをまとめています。本文の太字部分と連動させています】
2020年11月某日
今回も鹿笛吹きまくり猟(?)で行きます。尾根筋を歩き続けていると緩くボウル型に広がる谷間に子鹿が3頭遊んでいますが高低差が大きく距離は80m以上あり、まばらな立木が邪魔で撃てません。
ふと思い付いて何度か鹿笛を吹いてみると、大音量なのに気にする様子はなく音源であるわたしを探す素振りも見せません。「これなら小さな足音を気にせず笛を吹きながら近づく方が警戒されないのかも…」そう考えて調子にのって笛を吹きつつ距離を縮めていくと移動のタイミングだったようで、小走りに立ち去ろうとしています。
それでも立木から立木へ静かに移動してボウル状の斜面を下ろうとすると、視界の端に動く何かをとらえました。体を動かさずに眼球だけ動かして見るとオス鹿が距離20mまでのそりのそりと距離を詰めてきています。
ほんの数秒わたしがオス鹿より先に気付き、上半身をひねり、上下二連を折り、装填してネックに向けて構えます。オス鹿が顔を上げてわたしを見て立ち止まりました。私はもうトリガーを引き絞るだけです。オス鹿が次の行動をとる前に真正面から撃ち込みました。
「近距離で真正面、これはダメージが大きいはず、銃声とともにオス鹿が倒れたら二発目でとめるかナイフでとめさしか..」そんなイメージで残心しながら一歩進むとオス鹿は登ってきた斜面を勢いよく駆け下りていきます。
想像とのギャップに面食らって、木々の間を縫うように走り去るオス鹿を一瞬で見失っていまいました。わたしも斜面をスライディングするように滑りおりますが見える範囲にはいません。
「初の半矢か?それとも失中だったのか?血糊もないので前足の間の空間でも撃ってしまっただろうか?」色んな可能性が頭をよぎりますが、真正面からあたった手ごたえがあっただけに腑に落ちません。
撃った場所まで戻って、オス鹿のいた位置に先ほど撃ったはずの姿を頭の中で投影します。撃って走り出して、あ、そういえば左方向に走っていった気がするな、、と。
銃声のあとで獲物はいないでしょうから、遠慮なく普通の足取りで近辺を捜索します。
しばらく歩き回って、血糊はないし追跡しようがないな…と、ふと顔を上げると100m少し先に横たわる鹿が見えます。銃声で逃げずに寛いでいるやつかもしれない、などと考え鉄砲を構えて近寄っていくと、先ほど撃った鹿が息絶えていたのです。
撃った場所から200mは離れています。ここにきてようやく血糊をみつけられました。

ここまで来るのに時間かけていて、撃ったあとの捜索にも時間がかかってしまいました。急いだものの解体や片づけに時間がかかり、文字通り日が暮れてきました。
素直に下山すれば大丈夫だろうとたかをくくっていたのですが、数時間後に泣きを見ることになります。
過去7回の山歩きで無意識に忍び足を使い周囲を見渡すクセがついたこと、鹿や猪の動きに猟欲が沸き起こる脳みそになっていたことが猟果に繋がっていたのでしょうが…
肉を背負ってヨロヨロと下山していると、先ほどとは別のボウル状の谷間にメス鹿の群れがいます。150m以上はありそうでしたが、気付かれてしまい走り出されてしまいました。
群れが遠くへ逃げていくのに、手前にガサガサと派手な音を立てて走ってくるものがいます。耳を澄ましていると、眼下にある倒れた大木の根にできた空洞にウリ模様が駆け込んできました。距離は30m。フゴフゴ鼻息が聞こえてきます。
立ったまま静かに鉄砲を折り、装填して狙いをつけるのですが、穴の中が暗くてよく見えないうえに、万が一横にある岩にあたった場合の跳弾を心配してまごついているとどこかへ走り去ってしまいました。

鹿の群れの走りに驚いて猪が側まで走ってくるなんて面白いことがあるもんだ、なんて感慨にふけっていると木々を照らす陽光が淡くなってきています。そろそろ本気で下山しないといけません。暗い山は未経験ですし、ライトもありません。
後で気付いたのですが、下山しているつもりがついつい新しい地形を見たくてルートから大きく外れていました。Googleマップで位置は分かるのでとにかく集中して下山します。
ところが想像以上のはやさで日が暮れていきます。高い枝の枝葉に遮られ急に日光が薄くなってきました。
足元がモノクロのように見え始め、次第に手元さえよく見えなくなってきました。
通常なら30分で入山ポイントに着く位置ですが、足元の段差や根っこが見えないし、目の前に張り出している枝も見えないので、コケるし顔や頭をぶつけるしで気持ちが萎えます。一層動きが鈍くなり、ついには真っ暗になってしまいました。
頼りはスマホのライトだけですが身の回りしか照らせないのでルートを間違ってしまい、入山ポイントよりかなり手前で山道に直面しました。
山道に出ればもう迷わない、とホッとしたのも束の間でした。
山道に沿ってコンクリート造りの壁(ほぼ垂直)になっているのですが、暗くて地面までの高さが目測できないのです。思い付きで近くの石を落として反響音を聞くものの見当はつきません。
入山ポイントまでに車で通った道を思い出すと壁の高さは2~4mあったはずです。降りるとすればぶら下がって地面との高低差を減らして飛び降りることになりますが、4mの場所でぶら下がれば地面まで2m+αです。チキンでしょうけど怖くて仕方ありません。鉄砲と三段角サイズの鹿肉を背負っているのでまともに着地できる気もしません。
入山ポイントに向けて移動すると壁の上にフェンスがあり、密集して生えた木々の枝が突き抜けて鉄網に絡んでいます。ここは通れません。
入山ポイントと逆に数十m移動すると壁の高さが路面に近づくのが分かります。遠くに街路灯もあって路面が見えてきました。どうやら高さが2mのあたりで行き止まりです。手掛かりになる地面の土を払いのけ滑らないように足から壁に這わせていくものの、自重に耐えられず50㎝ほどの高さで落ちてしまいました。
鹿肉詰めたリュックがクッションになるような姿勢で尻もちをついてようやく路面に降り立ったのでした。そこから数百m歩いて入山ポイントに戻りました。


【MEMO】
ネック正面を近距離から撃っても200m近く走られることがある。倒れた場所以外に血糊が全く見当たらなかったので、捜索中は失中の可能性も考えたがそうではなかった。あてた自信があるなら諦めずに探すこと。
山の夜は危ない。少なくとも街育ちで山を知らない即席ハンターには辛かった。余裕をもって早めに(よそ見しないで)下山するか、ライトなど装備する必要がある。
【諸条件】
・鉄砲:上下二連スキート用12番
・照準:リブ+照星(光学機器なし)
・弾種:Monolit
・弾数:1発発射-1発命中(ネック)
・距離:目測20m
・獲物:鹿(オス)-回収済
・目的:有害鳥獣対策
※当ブログでは、狩猟と有害鳥獣の駆除で異なる表現を同一に扱ったり暗喩・直喩を用いたりする場合があります。作業工程の記述を省略している場合もあります。いずれの場合も法令に則り適切に行動・処置していますが、誤解を招く表現は速やかに修正しますので「お問い合わせ」よりご連絡ください。